私は、東京大学体験活動プログラムの一環として実施されたTOPSに、2012年(学部1年生)と2016年(学部卒業後)の二度、参加する機会をいただいた。私が二度もTOPSに参加したのは、このプログラムが「手作り」であることに魅力を感じたからである。2021年に初めて葛西教授とお会いした際、先生は、「このプログラムは『手作り弁当』のようなものだ」とおっしゃった。いま振り返ると、その言葉には二つの意味があったのではないかと思う。一つには、Oxbridgeの現役教員による授業、法曹学院や法律事務所の訪問等のプログラムの全てが、日英の研究者や法曹の交流により築かれた人間関係に基づき、研究者の手によって練られていることである。こうした交流の輪がTOPSの実施を通じて更に深まり、広がっていることは、毎年、開講科目や教員の顔ぶれに変化があることに表れている。「手作り」のもう一つの意味は、参加者がそれぞれの関心に基づいてプログラムを組み立て、唯一無二の経験をすることができることである。開講科目に幅広い選択肢があることはもとより、放課後や週末には、興味のあるテーマについて学びを深め、見聞を広めるのに十分な自由時間がある。そして、それぞれの経験を分かち合う場として、最後にプレゼンテーションの機会も用意されている。私自身も、興味の赴くままに、Crown Courtでの陪審裁判傍聴、特徴的なガーゴイルを探すためのコレッジ巡り、英文学ゆかりの地の探訪といった自分なりの経験をしたことが印象に残っている。TOPSのもう一つの重要な特徴は、Oxbridgeの本場の授業を体験できることである。私は、4年半、日本で法曹として働いた後、昨年からオックスフォード大学の法学修士課程に留学している。TOPSで受けた授業は、学生に対し、主体的に考えて発言することを促す双方向のものであったが、その教育手法は、現在、私が大学院で受けているセミナーやチュートリアルと同じである。私自身も未だ試行錯誤しているが、学問をする際、先行研究に対して問題提起をしながら、自分の言葉で説明できるまでその内容を理解した上で自分のとる立場を考え、それをエッセイの中で明確に表現し、教員と口頭で議論するという一連の思考過程に要求される能力は、オックスフォードの授業を通じて自覚的に鍛えるようになったように思う。こうした思考過程をたどる経験をしておくことは、将来、学問・実務のいずれの仕事をする上でも、分野を問わず有益であるということを、私の(限られた)経験からではあるが、申し上げたい。特に高校生の皆さんにとって、法学や古典学、イギリスの大学教育はあまり馴染みがないかもしれないが、これまで自分の関心外であった事柄に触れてみると、思わぬ方向に世界が広がるということもある。学生時代だからこそ経験できることの選択肢として、このユニークなプログラムへの参加をお勧めしたい。