6th formとは何ですか。1つ前の記事で、GCSEとA Levelについて話をしましたが、GCSE終了後2年間A Level試験を目指して学習する課程を6th formと呼びます。formをどう訳すかは別として(formは法学の分野でもよく使われますが、本当に訳しにくい言葉です)、6thは6番目ですから、当然1番から5番があるわけです。以下正確には改めてきちんと調査してから書きたいと思いますが、ここでは私の記憶と経験で述べますことをどうかお許しください。GCSE試験を受けるいわば最終学年を、5th formと呼びます。先ほどイギリスの教育は年齢や年限ではないと申しましたが、一応の平均的な数字を述べますと、義務教育は前半の6年間と後半の5年間に分けられます。その意味では日本よりも2年長いです。ただし5歳になった子が通い始め、また新学期は9月から始まりますから、生まれた月によっては、日本より2年近く早く学校に通うことになります。そして、今は廃止されましたがかつての「イレブン・プラス」という言葉が示すように、11歳になった子が次の5年間のコースに進みます。あえて日本と比較すれば、前半が小学校、後半が(旧制の)中学校(旧制中学は5年制でした)にあたります。私の経験によれば、後半の最初が3rd formの前半(lower 3rd)で、2年かけて3rd form全体が終わります。同様に次の2年間で4th formが終わります。そして最後の5年目が5th formで、その仕上げがGCSEということになります。ただし、これはあくまで平均であって、先生は生徒の能力、体格、それから外国人の場合は英語理解力を総合的に判断してどの段階に入れるかを柔軟に決めます。したがって、日本人が例えば家族の赴任に伴ってイギリスの学校に入学する場合も、それほど心配する必要はありません。良い学校ほど柔軟に対応してくれます。ただし、良い学校は当然優秀な生徒が多いので、競争は激烈です。私の経験では、日本の子供は最初は英語力が低いために低いクラスに入れられますが、理解力は高くまた英語力も、大人と違って子供はすぐ追いつきます。また、音楽やスポーツを通じて友達はすぐできますので、あまり心配する必要はありません。せっかく海外で生活をするチャンスを得たのですから、良質な現地校に通わせて、日本の勉強はインターネットでしてください。もう一つご父母の方に助言したいと思います(余計なお世話ですが)。海外に赴任されて日本人の間の評判ですぐ学校を決めるのではなく、independent schoolを含めてさまざまな学校を訪問して各校長先生と話をし、最終的にはお子さん本人の印象をもとに学校を選んでください。もしうまく適合できない場合は、すぐ転校すれば良いのです。孟母三遷の教えというのは現在にも生きています。これまでの話を聞いてきますと、6th formやA Level試験を受けるための2年間というのは、日本でいうと高校なのか大学なのかわからなくなってきました。まさにそこが肝腎なところです。イギリスの学校ではグラマー・スクール、パブリック・スクール、local schoolを問わず、この6th formに属する生徒は、それ以外の生徒とは雰囲気も異なるし、別扱いされています。一言でいうと、自由度が高まるとともに責任を負わされる(飲酒も一定程度許される)。この点でいえば、大学生に近いです。次に、学習内容ですが、先ほど言いましたように、大学入試に必要なA Levelの科目は3科目ですので、相当専門的な内容になります。たとえばいわゆる理科系を目指す生徒は、数学、物理、化学だけ、医学部・獣医学部を目指す生徒は物理ではなく生物学を取ります。日本の高校教育から見ると、非常に狭い範囲の科目しか勉強しません。ただしこれは、日本の高校生が世界でも類がないほどに幅広く勉強しているということかもしれません。他方、大学でいわゆる文科系を専攻する生徒は、A Levelの選択科目は人によって全く異なります。これらの専攻では、選択すべきA Level科目の指定が大学からなされません。極端に言うと、何を取っても構いません。ですから、英語の理解力が劣る日本人やアジア人は数学や物理を取れば良いのです。しかし、大学に入学後文科系の学問は多くの本を読み、またレポート(essay)をたくさん課されますので、現実には数学と物理だけでは授業について行けません。私は日本人はラテン語をA Levelで選択すればよいと思うのですが、おそらく皆さんはそういわれてもピンとこないと思いますので、これについては改めて説明したいと思います。では6th formはどちらかというと、大学の教育の一部と考えて良いのですか。必ずしもそうは言えませんが、日本の高校教育と根本的に異なるという点では、そう考えて結構です。ただし、日本の大学とイギリスの大学も相当違いますので、この議論はあまり意味がないかもしれません。ここでは面白い事実を二つ挙げておきます。第一は、たびたび出てきているラテン語とギリシア語についてです。イギリスでは、ほかのヨーロッパ諸国と同様、伝統的にこれらの言語(「古典語」と言います)の教育は大学入学前にやってきました。古典学のコースを専攻する大学生は入学時からある程度ホメロスやプラトン、キケロなどを原語で読むことが出来ます。これに対して、日本はもちろんのこと、アメリカでも古典語を学び始めるのは大学に入学してからです。しかし最近ではイギリスでは、そしてあのオックスフォード、ケンブリッジ大学でも、大学入学後に学び始める人が増えてきました。第二は、法学です。アメリカの大学には法学部はありません。法学は大学を卒業した学生がロー・スクールという専門学校ではじめて学びます。それに対して、ヨーロッパ大陸(フランスやドイツ)及びその法を取り入れた日本では大学で法学を学びます。イギリスはアメリカとヨーロッパ大陸のちょうど中間で、大学で学ぶこともできますし、卒業後専門学校で学ぶこともできます。実際イギリスの法律家の中で大学で法学を専攻した人は約50パーセントに過ぎません。大学時代に法学を学んだ方が良いのか、法学以外の学問(数学、コンピューター・サイエンス、哲学など)を学んだ方が良いのかについては、意見が割れています。