TOPSについて説明してください。TOPSはTokyo Oxford Programme of Summerの略で、2012年に東京大学の課外活動(「体験活動プログラム」)として開始しました。2013年から青山学院大学、立教大学を交えて毎年4週間オックスフォード、ケンブリッジ、エディンバラにおいて開催される一種のサマー・プログラムです。2017年からは前半2週間に高校生も参加するようになりました。2020年はコロナのために休止しましたが、2021年は全面リモートで行いました。そして、2022年は高校生60名、大学生40名、合計100名の大所帯で実施しました。このプログラムの最大の特徴は、教員がオックスブリッジで実際に教えている現役の若手教員であること、科目が古典学とCommon Lawであること、この二つです。いわゆる英語の授業はありません。なぜ古典学とCommon Lawなのですか。端的に言えば、どちらも日本で学べないからです。でも、日本にはギリシア語やラテン語の授業がありますし、英米法の授業もありますが、それとは違うのかと思う方もいらっしゃるでしょうこれは日本にあるフレンチ・レストランがフランス料理か日本料理かという問いに似ています。日本にあるフレンチ・レストランはもちろん、フランス料理ということもできます。ただ、フランスで食べるフランス料理とは異なります。この相違は、種において異なるのか、程度において異なるのか、人によって意見が分かれると思います。ただ断っておきたいのは、日本のフレンチ・レストランとフランスのレストランとどちらがおいしいか、をここで言っているのではありません。 フランスの食材やワインを使い、フランス人のシェフが料理しても、日本で食べるとそれはフランスとは異なると私は思います。なぜ日本にあるフレンチ・レストランとフランスにあるフレンチ・レストランは異なるのですか。食べる人も違うし、食べる場も違うからです。つまり、いくらフランス人シェフがフランスの食材やワインを使って料理をしても、想定されている、また実際に食べる人はほとんど日本人ですし、日本のレストランにおいてですから、その環境や嗜好に、一言でいえば文化に順応せざるを得ません(domestication)。たとえば、フランスではパンはいくらでも出てきますが、日本で一度に一片しか出てきません。また、フランスでは食事そのものが一つの社交ですから、ディナーには長時間を費やします。皆さんも旅行中にディナーに招待されて、早くホテルに帰って寝たいと思った経験はありませんか。この問題はTOPSの趣旨や学問と関係がありますか。大いにあります。「翻訳」や文化転移の問題と密接に絡んでいます。これについては後ほど説明します。また、わたくしの著書『文化転移』(Bibliotheca Wisteriana, 2022、2023再販)を読んでいただければ幸いです。https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/F_00054.html